ポルデノーネ無声映画祭という映画祭をご存知であろうか?
おそらく殆どの方が知らないと思う。といっても拙ブログに来る方は世間一般の日本人でない可能性も高かろうから当然知っている、なんて方もいらっしゃるかもしれない。
簡単に紹介するとイタリアで毎年行われている、無声映画専門の映画祭で無声映画に関わる人間で存在を知らなきゃモグリと言っても過言ではないイベントなのである。とか言ってる私も行った事はないのだけれどね。
ウィキペディアでも日本語で紹介されておりますよ。ウィキペディア日本語版「
ポルデノーネ無声映画祭」
そのポルデノーネ無声映画際の今年の特集はと申しますと、何と日本映画、もちろん無声映画で「松竹の三代巨匠」と題して島津保次郎、清水宏、牛原虚彦の3人が紹介されまたのです。

ほらこれがパンフレットですよ。表紙からして日本映画を特集するぞという意気を感じます。
それからヴェネツィア在住の方が「
ヴェネツィア ときどき イタリア」というブログで鑑賞記を書いてくれています。
ポルデノーネ無声映画祭 すっかりハマった、ポルデノーネ無声映画祭 上映作品は『海浜の女王』『感激時代』『明日天気になあれ』『麗人』『進軍』『若者よなぜ泣くか』『銀河』『愛よ人類と共にあれ』『七つの海』『港の日本娘』『大学の若旦那』『金環食』『東京の英雄』なんというラインナップです。
これね、嬉しいじゃないですか。松竹の特集なのに小津が入ってない。松竹の無声映画というとナントカのひとつ覚えみたいに小津作品を繰り返して上映する事が多いのに、小津を除いて、その上で松竹の三代巨匠“TRE MAESTRI DELLA SHOCHIKU/THREE SHOCHIKU MASTERS”なのです。何という映画史に対する深い愛情でありましょうか。
なのに 「松竹 ポルデノーネ」で検索しても出てくるのは映画ファン、映画祭参加者の書き込みだけ…。
松竹は宣伝しないのか?松竹のホームページで「弊社の作品がポルデノーネ無声映画祭に出品されました」とか報告は無いのか?
あまりにも悲しい。
文句はさておき、ポルデノーネ無声映画祭では上映にあたり生伴奏をつけるのが基本なのです。そこへ本年は日本の無声映画伴奏第一人者の柳下美恵さんが参加したのですよ。柳下さんが演奏したのはパンフレットによれば10月3日『七つの海』4日『愛よ人類と共にあれ』5日『海浜の女王』『感激時代』6日『麗人』であります。中でも白眉は『愛よ人類と共にあれ』なのです。その時の感動を小川佐和子さんがツイッターで報告してくれています。
@Sawako_og
柳下美恵さんの無声映画伴奏ピアノ、スタンディングオーヴェーション!!ほんとにほんとに素晴らしかった!細やかで滑らかで画面に付き添う感じで。最大規模の国際的無声映画祭での大成功、柳下さん、おめでとう♪( ´▽`)
10月5日
さらにフィルムセンター
岡田秀則氏のブログによっても当日の柳下さんへの反応がいかし素晴らしかったかが伝わってくる。
そして、演奏を終えた柳下さんには、割れんばかりのスタンディング・オベーションが送られた。ここの観客は、映画への深い理解に基づいた演奏を高く評価するし、何よりも4時間の演奏がいかに常軌を逸した仕事であるかをよく知っている。他のベテラン・ミュージシャンからも「まだ生きてるか?」と冗談を言われていたが、柳下さんは、本日をもって今年のポルデノーネの新スターとなった。
なにしろ『愛よ人類と共にあれ』は上映時間241分の超大作なのだ。それを柳下さんは演奏しきったのだ。音を出し続けたのではない、演奏しきったのだ。喝采が送られるのも当然と言えるでしょう。
なのに 再び太字で「なのに」である。この事実は全く日本メディアによって報道されない。
海外の映画祭で日本の無声映画が特集されている事も、日本の無声映画伴奏者が喝采に包まれたことも。
やれアカデミー賞だ、カンヌだとなれば日本人がノミネートされただけでも日本の誇りであるかの如く報道される。でもノミネートって別に賞を取った訳じゃないよね。そりゃ柳下さんだって賞を貰ったのではないけれど、有名映画祭のノミネートで大騒ぎするなら、柳下さんだって空港で取材陣が待ち構えられている位はあったって良い。
マスコミの皆さんにお願いしたい。こういう事をちゃんと伝えてはくれまいか、と。
もっともメディアの所為にばかりも出来ないのです。なぜこんなにも我々の業界が注目されないかといえば、我々自身の責任もあるのです。というよりも我々自身の責任が大きい。私の師匠の澤登翠だって、それに私だって過去に何度も海外公演をしています。それを有効に世間に告知してきたのか?
出来てないだろう。
「自分とは関係ない」とか、「○○が注目されると自分の仕事が減る」とかいう馬鹿みたいな発想が罷り通っているのが私たちの業界なのです。ちゃんとした人も居ますよ。てか、ちゃんとした人の方が多いですよ。でも今のままでは活弁とか、無声映画伴奏は駄目になってしまう。それだけは阻止しなければならない。早い話、柳下さんが海外でスタンディング・オベーションを受けたなら、我々が積極的に世間に広めなきゃならないのです。私がクロアチアの美術館に、こけら落としで呼ばれていったら、皆で利用してくれなきゃ困るのです。「自分とは関係ない」なんて言っている場合ではないのです。
だから私はここで讃えるのです。
柳下美恵は凄ぇぞ、と。
ポルデノーネに行く少日前には早稲田の大隈講堂で、『おっぱいとトラクター』の音楽を奏で(朗読は私)、ポルデノーネから京都に直行して京都映画祭2010で『黒手組助六』『切られ与三』『鳥辺山心中』の伴奏もやってのけたのです。こんな方が凄くない訳がない。
これは柳下さんや無声映画業界に限った話ではないのです。世界には様々な映画祭があって、日本映画は結構色んな賞を貰っているのに国内でキチンと評価している人が余りにも少ない。もういいよ、ノミネートで騒ぐのは。それよりも各映画祭で評価された作品を讃えようよ。
俺だって3回も海外公演してるんだぜ。・・・・結局そこかいな。
柳下美恵さんのサイト「
サウンド・オブ・サイレント」です。ご用命はこちらからどうぞ。