大分放置してしまった閑話休題で御座います。
久々に更新いたします。この調子で帰国までリアルタイムで書きつつ、穴も埋めていければ良いなと思っております。
物を書くのも、芸を磨くのも、筋肉を鍛えるのも唯一のコツは継続なんですな。受験では一日休んだら三日遅れるなんて事を言いますが、一日休んだら遅れるのは一日分です。でも今日だけが、今日も良いか、になるのがとても怖い。一日休んで、次の日にフル起動できる人は、それだけで才能がありますよ、実際。
さて本日は『Emperor』を見て参りました。
Oの字が日の丸になっているポスター 片岡孝太郎が昭和天皇を、トミー・リー・ジョーンズがダクラス・マッカーサーを演じるというのでひっそりと話題になったものの日本公開が未定だった事もあり日本では大きく取り上げられずに米国公開を迎えてしまった感のある作品です。
一部報道では『太陽』『靖国』に並ぶ問題作となる可能性がある、なんて書かれておりました。これは日本人として見ておかねばなるまいと、こちらのシネコンで見たんですが、いやはや、これ悪くないですよ。少なくとも話題ばかりが先行していざ見てみたら「なにが問題なの?」ってなった『靖国』より僕はずっと好きです。さらに『Emperor』は別段問題作じゃありません。少なくとも僕にとっては。
実際、本作の主人公は昭和天皇でもなければマッカーサーでもありません。タイトルこそ『Emperor(天皇)』ですが実質的にはボナー・フェラーズという方(この人も実在の人物)が物語の中心人物です。マッカーサーと共に日本統治の為にやってきたフェラーズには実はずっと想っている日本人女性がいて……、というのが本作のメイン部分。
引き裂かれた二人の恋を通じて戦争の悲劇と、戦後日本統治、特に戦争責任が誰にあるのかを決めなければならない非日本人にとっての戦後日本における苦悩がここでは描かれています。
個人的にはっとした点はふたつ。
まずは何と言ってもファーストシーンです。ここでは原爆投下の記録映像が使われています。以前このスミソニアンの航空博物館に行った時に触れましたが、あの博物館に所蔵されているエノラ・ゲイを原爆投下の資料も混みで展示しようとしたところ一部の人々の猛反発にあい展示そのものがなくなってしまった事があります(現在は別館に展示)。原爆を兵器として使用した歴史は今なお非常に扱いが難しい事実なのです。それなのに原爆投下から始まる映画が米国のシネコンで上映されている。
そしてもう一点は字幕の使い方です。舞台が終戦直後の日本ですから日本語も時折出てきます。普通の映画なら全ての日本語に英語字幕をつけて公開されるでしょうが、この映画はストーリーに重要な日本語以外は字幕が出てきません。映画館に来た多くのアメリカ人観客は時折交わされる日本語の会話の意味が分からないのです。『Emperor』は日本とアメリカが手を取り合って新しい時代を作っていく希望を予感させて終わります。実際、マッカーサーと天皇の対面を実現させたフェラーズが満足げに「飲みに行こう」と車に乗り込み颯爽と焦土と化した東京の走り抜けてゆくのがラストシーンです。しかし作中では翻訳されない日本語が何度も出てきます。両者が真に手を取り合う事の困難さがここに描かれています。
こうした視点は監督のピーター・ウェーバーがアメリカ人ではない事にも由来するでしょう。ちなみに『真珠の首飾りの少女』『ハンニバル・ライジング』の監督でもあります。そういった訳で戦争に勝ったカッコ良いアメリカ軍人は出てきません。むしろに日本や天皇に気を使い、配慮するアメリカ人の姿がこれでもかとばかりに出てきます。そのせいか、僕が見に行った回の周囲のお客さんの反応はイマイチだったように感じました。
日本の世論がTPPだオスプレイだで、かなり割れている中で、こういう映画を結構大きな規模で公開しちゃうんですね。一般的なアメリカの方々だと「TPPってなんじゃならホイ?」って人も多いらしいのですが、日米関係に関心のある人にとってはTPPは当然知っている事、ましてや本作を制作するにあたっては当然それらの状況も考えるでしょう。でもやっちゃうのがアメリカの自信というか、凄い所。
それから時代考証はしっかりやっている印象です。僕は専門家ではないので詳しくは分かりませんが、少なくとも『パールハーバー』(2001)のように日本軍司令官が乗っている戦艦の中に日本庭園と鳥居がある、みたいな全身脱力ツッコミ所満載系映画ではありませんでした。
日本公開が未定だった、と先ほど書きましたが今調べたところ日本公開は7月に決定したそうで
公式サイト も立ち上がっています。邦題は『終戦のエンペラー』のようです。これは「天皇」という単語を避けたんでしょうかね。気になるところです。正直、ちょっと違和感のある邦題ですが、単純に『天皇』にしちゃうと観客層が狭まっちゃいそうだしなァ。
VIDEO こちらはトミー・リー・ジョーンズからのメッセージ動画 最近、日本における愛国心が(ごく一部の人でしょうが)おかしな方向に向かっているように感じられます。中韓に喧嘩を売ってりゃ愛国だってのはあまりにも、あまりにもですよ。そうした状況下で本作の日本公開が決まっているのはとても嬉しい。海外の目から見た終戦直後の日本がどんなものであったかの一端を、我々は『終戦のエンペラー』を通じて知る事が出来ます。外から日本に対してどんな視線が向けられていたか、この時期に触れる事が出来るのは日本人にとってもありがたい事ではないでしょうか。
それから片岡孝太郎の天皇は昭和天皇は味があって良ぅ御座いました。『太陽』ではイッセー尾形が演じていますけれど、ここから分かるのは天皇を演じるのに重要なのは演技力よりも身体性って事なんです。あの時代をどっかで間違えたような悠然とした動きはジョークでやるなら結構誰でも出来ますが、きっちり演じようとしたら普通の役者さんじゃ無理なんです。別にお二人に演技力が無いって言ってるんじゃないですよ、念の為。
片岡孝太郎の他には伊武雅人、西田敏行、桃井かおり、中村雅俊、初音映莉子といった面々が出演しております。初音映莉子はキーパーソン抜擢に応える好演をしておりました。
最後に申し上げておきますが、僕の英語力ですので会話の細かい部分は聞き取れてません。7月になったら答え合わせをしに日本語字幕付きの上映にも行かなきゃ。
全然違う話だった!てな事になったゴメンね。
でも、しばらく怠けていた僕に、今日はブログを書かなきゃと思わせてくれる映画だったのは事実です。