普通は知らない名前です。テレビで時々難読漢字が取り上げられて、正解率○%とか出ますが、アリス・ギィは日本で調査しても1%も知らないであろう事は間違いのない方です。
でも無声映画で飯を食ってる人間なら押さえておきたい名前でもあります。
大雑把に映画の歴史を言いますと、覗き眼鏡式の動画視聴機がエジソンによって発明され、投影式映写機がリュミエール兄弟によって開発され、ジョルジュ・メリエスによって映画はフィクションを手に入れた、とされています。ところがメリエスと同時期に活躍した監督もまた映画の発達には大きな役割を果たしているのです。その名をアリス・ギィ・ブランシェ、世界初の女性監督です。
メリエスが幻想的な世界観を描くことを得意としていたとするならば、アリスは自分たちの暮らす世界を舞台にした現実的な世界観を描くことを得手としていたと言えるでしょう。それは(非常に安易な言い方ではありますが)女性的な視点とも言えます。多くの男性が映画という新しい玩具を手に入れ夢中になっていた時に、アリスは極めて理性的な作品作りをしています。これは映画にとって実に幸運な事でした。揺籃期にいくつもの視点が入り混じったのは、映画というジャンルが持てるポテンシャルを世界に向けて示し得たという事になる訳です。
アリスの視点がなければ、もしかしたら映画は、ただの珍しい見世物として早々に姿を消していたかもしれません。
少々大げさに言いましたが、アリス・ギィは映画史初期において、実に重要な働きをした女性です。
以前から僕はアリス・ギィの作品を上映したくて仕方ありませんでした。ところが無声映画を商売にしている方には「それ誰?」といわれ、女性の社会参画をテーマにセミナーをやっている方に提案すれば「機会があったら」とやんわり断られ……。
なんかみんな、あんまり興味ないらしいのよ。こんなに面白い方なのに。アリス・ギィ作品を澤登翠の説明と、柳下美恵の音楽で上映できれば女性の社会進出のテーマにこれ以上ないくらいハマるのに。
それがとうとう、上映できる事になりました。弁士は俺だけどな。
日程が良いね。7月14日、つまり巴里祭です。会場はアンスティチュ・フランセ関西。ここでアリス作品を八本上映致します。
魔術師メリエスに対して、アリス・ギィは銀幕のアリス。
映画が生まれた直後の瑞々しい輝きを、この機会にご覧いただきたいと思います。
どうぞお越しくださいませ。
●世界初の女性映画監督 アリス・ギィ特集
日時/7月14日15時30分~ & 18時20分~
会場/アンスティチュ・フランセ関西(旧 関西日仏学館)稲畑ホール
弁士/片岡一郎
上映作品/
15:30の回
キャスター付きベッド (1907, Le Lit à roulettes, 4min)
キリストの生涯 (1906, La Naissance, la vie et la mort du Christ, 34min)
18:20の回
キャベツ畑の妖精 (1900, La Fée aux choux, 1min)
サル人間の真相 (1906, La Vérité sur l'homme-singe, 6min)
フェミニズムの結果 (1906, Les Résultats du féminisme, 7min)
誘惑のピアノ (1907, Le Piano irrésistible, 5min)
バリケードの上で (1907, Sur la barricade, 5min)
ソーセージ競争 (1907, La Course à la saucisse, 5min)
料金/パリ祭入場料800円(映画無料)/前売券700円(アンスティチュ・フランセ関西1F受付にて販売中)
協力/京都シネマ、ゴーモン


自分の仕事の協力にゴーモンが入るという感激が分かる人が何人いるかねぇ。