はいどうも~。

 え~、明日出発ですよ、クロアチア。まだ荷造りしてません。ええ。

 この一週間はいろんな方に「気をつけてね」「頑張ってね」と言っていただいております。有難い、有難いのだが、何を気をつければいいのか分らん。頑張るちゅうてもいつもだって頑張ってるし、やっぱり分らん。分らんからヘラヘラした顔で「ハ~イ」なんて返事しか出来ずにいる私なのです。

 あんまし気負ってないのよ、実は。都内で演るのも、埼玉で演るのも、クロアチアで演るのも同じなのです。しかもピアノのグルーバーからは「作品について勉強はしたけど、もうどんどん忘れている。なぜなら僕らは学者ではなくパフォーマーなんだから」というような、いかにもアチラの方らしい内容のメールをくれたりと、今回の『狂った一頁』上映コンビは海を越えてユルいのです。みんな、ごめんな。

 そんな状態なので、元気にはっきり「行ってきます!」とか言えないのです。大体出発報告をこんな場所でするのも気恥ずかしいし、そもそも柄ぢゃない。

 ここで殊勝な言葉でも言えれば良いんだろうケドね。

 仕方がないので片岡版『狂った一頁』の説明台本を全文掲載します。自分用の文章なので全く意味不明ですが一つのモニュメントとして。この台本はシナリオをベースに書いた片岡一郎のオリジナル説明台本です。人物の会話等、要所々々でシナリオの言葉を使っていますが9割以上は私の言葉です。念のため。『狂った一頁』に関して書かれた文章に「過去の弁士はこの作品をどのように語ったのだろうか」風の内容をたまに見ます。文章のエッセンスとして書いてるんだろうが、少しは頭使えよ、と言ってやりたくなります。こんなにもインスピレーションを刺激する作品を観て言葉が出てこなけりゃ精神の不感症なんだ。少なくとも書く作業をしている者なら「書いてみたい、語ってみたい」という気持ちが先に出るはずで「どう語ったのだろう」とは書く段階で出てくる疑問のハズなんである。

 でもホントに色々な心遣いありがとう御座います。

 ではいってきま 狂った一頁台本

夜、いつ訪れ、いつ去るとも知れぬ夜
雨、雨、雨、大地を激しく叩く繁吹き雨
嵐の中にたたずむ心を病みたる者達の城。

球体    

くるくると廻り惑わす心の内
くるくる、くるくるくる
汝が玉座にて舞うは誰なりか。
くるい、くるくるくる誰ぞくる?
  この城に誰ぞくる?

牢内、女    

乙女も踊る……
この部屋も、あの部屋も皆が踊る。
内なるリズム、外なるテンポに突き動かされ…
稲妻が幻惑のメロディを奏でる
踊りは果てる事を知らず虚ろなる肉体を虜にする。

女、倒れる→女のアップ    

乙女は冷たき大地に伏す。
なれど、天地の鳴動は尚も命ずる。
踊れ踊れ!舞え舞え!跳べ跳べ!

妻と夫
    
「どうだ具合は」
「あんた誰だい?」
「お前の夫だ」
「あんた誰だい?」
「お前の、夫だ!」
「あの児が泣いている!」
気のふれた妻
 脳病院の惨状
  二目と見られぬ悪夢の園で
   夫はそれまでの生活の一切を捨て
    小間使いとして働いていた
それが、妻への罪滅ぼしになると信じたくて

踊る乙女→妻→夫アップ    

「お前の夫だ…」
「お前!」
「何でもしてやるぞ」
「何でも?」
「ああ、何でもだ」
「これ、頂戴!ああ…キラキラしている」

ボタンで遊ぶ妻    

「面白い、面白い」
「お前」

ゆがんだ夫    

「オマエ」
「ははは、面白い顔」

廊下

「雨止みませんね」
「雨止みませんね」
「洗濯物、乾きにくいったらありゃしない」



「どうしてこんな所に…
ああそうだ、儂ァ船乗りで、女房を殴って、それで、女房が死のうとして、
それから赤ん坊が死んだ。
忘れちまう。みんな忘れちまう。
なのに脳から離れない…」



翌朝、雨は止み、黒雲は去り黒犬来る。
「また朝だ」
「おはよう、頁をめくりましょう」

門前→娘アップ

「あの、こんにちは」
「どうぞ…」

院内

「母に会いに着ました」
「面会は許可できません」
「いいじゃないか。何番だい?」

「二十五番ならこっちだよ」
「アッお父さん」
「二十五番の娘さんだよ」
「儂の娘か…
    綺麗になって…」
ゆらり絡まる縁の綾糸
  ゆらりゆらゆら心は揺れる
さらりほどける絆の桛糸
  さらりさらさら心は割れる

廊下

「早く帰るんだ」
「おかしな奴が居るぞ…」
「あたし、お母さんに会います!」

娘、格子にすがって

「お母さん、あたし結婚します」
「結婚、するのか…」
「あなたには関わりありません」
既に此岸より舟を出だし
 彼岸の澤へと近づきたる母の姿
娘の衝撃たるやいかばかりか…。
「お母さん、お母さん」
「お母さんはもう誰も解らない。
儂の事も解らないのだ」
「帰ります」
「おもしろい!」
「こんにちは、良いお天気ですね。洗濯物がよく乾きますよ」



「坊や、坊や。ありがとう。一寸いい?」

朝の診察
  心を病んだ者
    世間に容れられなくなった者が
      今日も新しき頁をめくる。

医師

「具合は良さそうだね」

医師

「おや、綺麗な着物だ」

看護婦

「暴れないで下さい」

医師と看護婦

「今日も変わり無し!」

廊下

「患者が暴れてるのよ。
静かになさい!そうね、あなたはおかしくないわね。
お部屋に戻りましょう」

妻の病室

「お早う。私が判るかね」
「あんたは」
「あたしの」
「子供を」
「殺した」
「殺した、殺した、殺した、殺した」
「先生、その女の具合は?」
「君には関係ない。あっちに行っていたまえ!」
「はい…」
「散歩に出してやりたまえ」
「ありがとう御座います。
お化粧しないと…。そうだ、かんざし…」
「これで、いいわ」
「駄目よ、外には出られません」
「さあ皆さん、散歩に行きましょう」
「出せ!気狂い!この牢屋!もう踊ってやらない」



患者達が唯一戒めから解き放たれる、朝の散歩。
真白の衣
 真白の花
  真白の記憶
   真白の時間
「ねえ、あのおじさんの事を教えて」
「知らないよ。話もしないしさ」
「じゃあ、いつから居るの。お母さんとどっちが先?」
「あ、そうか、成程、そうだったんだ、下らねえや」

「おじさん!
二十五番の女、おじさんの嫁か?」
「違う!」
「追ってきたんだろ」
「馬鹿な事を…」

「あれ、娘だろ、おじさんの」

狂気の園に在って
正気にさいなまれ懊悩する娘

「儂を許しておくれ…」
「結婚するのか…」

演説

政治思想狂が熱弁をふるう。
この病院にはあらゆる種類の人間がいる。
狂人もそうでない者も。



「綺麗」
「世界は綺麗」

父と娘

家族を隔てる格子は無い、何も無い…。

「お?」
「女だ、外の女だ!外の女だ!」
「世界は汚い」


乙女が舞う
 夜の訪れを感じ
乙女は目覚める
 目覚めた乙女は
感じた夜の訪れを
 舞う乙女

「上手いわ」「素敵」「あんな風になりたい」
「中に入れろ」「見せろ、俺にも。中に入れろ。この中に入れろ」

医師

「何の騒ぎだね」
「早く皆、部屋に戻るんだ」
「戻るんだ。戻りたまえ」
「俺たちを引きずり出そうというのか。
中へ入れろ。出るものか。残酷な外へなど。
中に入れろ。中に帰るんだ」
「お前、儂の女房を!」
一人、又一人を患者は病室へと連れて行かれる。

男アップ

「先生、済みません」
「管理問題だよ、君!」
「中へ!」
「まだ一人居るぞ!」
「とにかく来たまえ」

「君はクビだ!」
「何だね?」
「先生、どうか…」
「いかんね、クビだ」
「そうですか」

妻の姿よぎる

「いや、先生、どうか、どうか、どうか」

停車場

どことも知れぬ停車場、娘の仕事場である。
日々繰り返される仕事。変わらぬ毎日。
生活は何者かに支配されている。
習慣は無言の瞬間を重ね、生を循環し心を牢獄に収監せしめる。

洋室

「あの、お客様です」
「来たかな」



「やァ、待っていたよ。さあ出掛けようじゃないか」


乙女は自由を奪われた。
男は格子の内にある者に愛情を注ぎ、
 格子の外にある者に不安を覚える。

男の子

「おい、面白いものが来たぞ!」
「何だ、はしゃぎやがって…」
「おお、楽隊、祭りかァ」
風に流れる楽団の演奏
灰色の日常に突如差し込む極彩色の非日常
幸福なる幻、絢爛なる偽り、甘美なる夢、優婉なり悪意
男は夢想の国へとさまよい出る

大福引

福引の催しが華々しく開かれる。
誰もが貧苦に喘いでいる。
豊かに暮らす事が最大の欲求であり最高の欲望である。
一等のタンスが喉から手が出る程欲しい。



「当たった、儂が、一等だ」
「おめでとう御座います。
一等のタンスです。
おめでとう御座います。
おめでとう御座います」

タンス

幸福の重み



「お父さん」
「お前の婚礼の祝い物ができたぞ」
「お父さん、ありがとう」

乙女が踊る。福引で当てた服を着て…

「ハハハ、そんな事がある訳がない…」

皿をなめる女

命をつなぐ為だけの食事。
「お前、毎日、粗末な物ばかりだなァ…。
ほら、柏餅だ。もう一つあるぞ。
美味いか?
又、持ってきてやるぞ!」

医師

「おい!」
「ああ、呼んでいる」
「何をしているんだ。怠けるんじゃない」

茶碗を落とす

「ああ、済みません。済みません」



見慣れぬ車が病院にやって来た。
 ドッ・ドッ・ドッ・ドッ
    エンジンの音がする
ドッ・ドッ・ドッ・ドッ
   胸騒ぎの音がする
「騒がしい日だ」

子供たち

少年は狂人の真似をして友達の気を引かんとする。
「ああ、ああ」

戸が開く

「誰だ?」
「おお…」
「よく来た、さあ、おかけ」
憂いに満ちた娘の顔
「どうかしたのか?」
娘の指輪が回る
  くるくるとくるくると。
「結婚、駄目になったのか?」
「お母さんのことを、あの人に知られてしまいました」
「思い切ったがよい」
「何を思い切るんです?」
「そんな奴とは一緒になるんじゃない」
「どうして」
「お前のたった一人のお母さんを侮辱したのだぞ!」
「あなたにそんな事、言う資格はありません」
「待て…もう居ない」
砕けた心、砕けた暮らし、砕けた絆、砕けぬ己
「あの娘だけには…」

闇が再び世界を包む
  深い闇、深い闇
奈落より出で、星影の彼方へと精神をいざなうもの
  深い闇、深い闇
「ああ、怖い」

男の影

彼は決意をした。
妻が狂人であるだが故に娘は結婚できぬ。
妻が脳病院の患者であるが故に娘は結婚できぬ。
妻が故に娘は結婚できぬ。

男、格子越しに妻を呼ぶ

「おい!」
「ああ…」
「いいか、今出してやるからな」
「大丈夫だ。何とかなるさ」

妻アップ

「あんた誰だい?あんた誰だい?」
「静かに。さあ出るんだ」
「怖い」
「何の怖い事があるものか。さあ」
「こわい、こわい、こわい、こわい」
「起きろ、起きるんだ」
「さあ外へ行くんだ。娘の為だ」

叫ぶ女

「あーーーーーーーーーーーーーー」
鼓動が響く
 ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・ドン

病院の戸を開ける

「来るんだ。こんな処に居るからおかしくなっちまうんだ。
外に居たほうがいい。
外には正常な人間しか居ないんだ」
「恐い、恐い、恐い、恐い、恐い」
「恐くなんかあるものか。早くしろ。見つかっちまう」
ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・ドン
「こわい、コワイ、怖い、恐い」
「しっかり、しっかりしろ」
「息はあるな。そうだ、水を、水を…」

男帰ってくる

「おい、何処へいった?」
「どうしてこんな牢屋に居たがるんだ?」
「いかん、誰か来た」
彼は鍵を落とした
 鍵、外を内を開くもの
   鍵、外と内を閉ざすもの
     鍵、外と内を結ぶもの
彼は鍵を落とした
「ああ、おかしくなりそうだ…」
「もう、ここには居られやしない」

狂人達の弾劾

「気狂奴」
「気狂が逃げるぞ」
「君、気が狂ったね」
「気をたしかに」
「気狂いだ!」
「お父さん、どうして狂ってしまったの?
お父さんの所為で結婚は破談に!」
くるくる、くるくる、くるいくるくる、くるくるくる。
     おどりおどれや死者のまい
くるくると、くるくると…
     乱れることなく
        途絶えることなく
くるくると、くるいくるくる、くるくると…。

ヘッドライト

いずこからともなく現れ来る婚礼の車
    車輪は廻るくるくるとくるくると。
「ああ、見ては嫌!」
「さあ、戻るんだ。あの中へ!」
「さあ戻れ。俺の言う事を聞け。
なぜ聞けない!なぜだ!」
「お父さん止めて。お母さんが、正常になってしまうから」
夫婦となり児を宿し
 命を終え、己が死骸を霊柩車に乗せる。
車輪は廻る、因果は廻る
 くるくると。

頭をさする男

「夢か、いったい何時から?」

狂人三人

彼は思い至った。
この果て無き狂気の輪廻を断つ方法を。
すぐさま用意された数々の笑い面。
「笑うことだ。何事も笑うことだ。
ほうら、いい顔だ。まっとうな人になったぞ」

女の狂人たち

「お前たちも、さあ、付けるがいい」

乙女踊る

「そうだ笑うことだ。
愉快ではないか、愉快ではないかいなァ」

床そうじ

「又、夢を見ていた」
何も変わらぬ朝
 今朝も新たな頁はめくられたのだろう。
「開かない、なぜだ?」
何かが違う。昨日とは何かが…。
本当に頁はめくられたのか?

狂人礼をする

「やはり違う。ここはどこだ」
狂気の輪廻より逃れた彼は、物語の狭間に紛れ込んだ。
今日も明日もその先も、彼は狂った一頁をめくり続ける。
ずっと、ずっと…。
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