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昭和六年 弁士番付

 今回の画像は昭和6年矢部古泉堂発行の番付です。須田貞明の位付けは統師となっていまして、同格には静田錦波、松井翠声、加藤龍美、中村声波等が並んでいます。キャリアを考えると大変な高位であります。

 二回に渡って須田貞明を取り上げまして、今回は一月半彼に関わって感じた事を吐き出します。何しろこの先輩はシニカルな方でして、それを追っている私も影響を被ってしまいましたから最近のモロモロの発言が卑屈気味だった事は否めません。特に同業者に対してなぞは大いに不快感を与えかねない発言をこの場で繰り返してきました。それもこれも皆、須田貞明の人生を追っていた所為なのです。ごめんね。もうああいう事は書きません。思うだけに留めます、たぶん。

   与太はこの辺にしまして、是非問題提起として書いておかねばならぬ事があります。それは弁士の知性と映画の関係性についてです。無声映画など見たことの無い方には意外かも知れませんが、無声映画に弁士が付いた方がいいとか、弁士は邪魔だとかいう言説はいまだに一部で繰り広げられているのです。こんな事をもっともらしく語っている事そのものが現代との遊離と思えなくもないのですが、そうした弁士嫌いの理由の一つに「弁士は勝手な事を喋って映画を改変してしまう」という判断があります。アタシに言わせりゃ弁士は無声映画を芸能化する装置なのでそんなのは問題以前なのですが、これは余談。ここで問題にしたいのは<弁士が映画を改変>した時、もしも弁士の知性が監督、脚本家、評論家、そしてなによりアナタよりも高かったらどうするのか、という点です。というのも、この改変問題論はて弁士がバカであると前提しているように感じられる節があり、鼻持ちならんことには弁士を否定している自分はまともで知性があると信じているが如き論調なのです。

 別にアタシが頭が良いと言ってるんぢゃありやせん。でも須田貞明は確実に頭の良い方でした。学校の成績が良かったとか、そういう事ではなく知性がありました。弟の黒澤明がプロレタリア美術家同盟に入る決意を告げると須田貞明は「それもいいだろう。でも、今のプロレタリア運動はインフルエンザのようなもんだ。すぐに熱はさめるよ」と笑って言ったと弟の自伝にあります。このやりとりが交わされたのが昭和四年、この時期にプロレタリア運動をインフルエンザと喝破できた知識人が何人いたでしょう。皆、それこそ熱に浮かされた様に労働者解放を訴えていたではないですか。しかし間もなく日本は国策の渦に飲み込まれ一億玉砕を誰もが叫ぶ時代に突入したのです。こうした現実を見通す力を知性というのです。須田貞明は自身ロシア文学を愛しながら、実体の無い時代の潮流から身をかわしていたのです。

 弁士の知性と映画の関係性はもっと考えなければならない問題です。もし、知性など関係ない、原点を改変することが問題なのだというのであれば文学や演劇から借り物だらけの映画は芸術として未だ未成熟なものとなっていまいます。この問題は非常に根が深いのですよ。

 そしていま一つの問題として須田貞明があまりにも研究されていない事を挙げておきます。黒澤明は映画界の天皇として様々な研究がなされているのに、彼が自分に多大なる影響を与えたと明言している須田貞明=黒澤丙午に関してはまるで野ざらしです。探せば丙午がプログラムに投稿した映画評も相当数見つかるはずです。須田貞明の出演していたプログラムを詳細に調べれば黒澤明がどんな映画を観ていたか考察が可能なのにそれをしない。この国の映画史は弁士を軽んじすぎると思うのは弁士故の卑屈でしょうか?

 以前、アメリカから黒澤研究の為に来日した方がマツダ映画社を訪れた事があります。理由は言うまでもなく須田貞明の資料を求めてです。しかしその来日では彼らが期待した程の成果は得られませんでした。須田貞明に関する資料があまりにも少なすぎたのです。彼らは見て解るほどがっかりしていました。これは恥ずべき事であろうと思います。

 現在、私は29歳、今年中に30になります。須田貞明が醜くなるばかりと評した歳になるのです。彼は醜くなる前にその生涯を終えました。私は30になるでしょう。しかし、片岡一郎という弁士は須田貞明ほどの知性も才能もないと思います。それでも、弁士を続けていく事でなにか見えてくるのかどうか。考えねて語ってゆかねばならぬと思っています。

 固くなりましたが、まぁあれですよ、やっぱり日本人は自国の文化にもっと自信と誇りを持とうよって話なのです。

 さてさて、これでひとまず須田貞明とはお別れです。次に取り上げる説明者は決めてあります。というのも、その方についての今まで知らなかった有力な資料が見つかったのです。ここで問題。さて、その説明者とはだれでしょうか?正解の方には何かあげる。
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