ここ最近、僕は無声映画上映における生演奏の重要性について繰り返し発言をしております。これから先、無声映画は盛り上がってゆくには生演奏での上映が必須だろうと。生の魅力が提示できなければ、無声映画の可能性を世間一般に伝えるのは現時点では難しいだろうと。今だって年間にとんでもない数の新作映画が公開され、膨大な量の演芸会が催され、星の数ほどの演劇が上演され、気の遠くなるような演奏会が行われている中で、あえて無声映画に足を運んでもらうにはどうしたって生の、今の息吹を感じさせる内容にしないと成立しないと思うのです。
 無声映画が貴重だから劇場に足を運んでくれる時代では少なくとも無い。

 以前、冗談で「こんな古い映画を見に来てくれる奇特な方々」って言ったら本気で怒って出て行ったお客様がいましたっけ。お前は何の仕事をしているんだという憤りだったそうですが、本気で言ったと思われちゃうのが我ながら情けない。

 ともあれ生演奏です。生演奏で上映すべきなんです。でも自分の関わる仕事で必ず生演奏に出来るかと言えば、これまた情けない限りです。どうしても予算の問題があります。柳下美恵さんやカラード・モノトーンさんにお願いすれば音楽は間違いなく良いものになりますが、毎回々々サービス価格でお願いする訳にもいきません。あちらは尊敬する業界の先輩ですから。といってそこら辺にいるミュージシャンを適当につれてきても酷い目に合わされる可能性が高いのです。
 弁士も楽士も無声映画に付随するパフォーマンスは押し引きのさじ加減が難しい。テが合わない相手とのパフォーマンスは実に辛いですし、酷い人になると映画なんか見ないで適当に自分の得意な曲を演奏してコラボで御座い、なんてパターンもあります。そんな事になるくらいなら、というので割に頻繁に行われているのが、既成の録音物を選曲して上映に合わせてキューシートを見ながら流す方式です。でもこれは次善の策でしかない。選曲上映はどうしてもライブ感に欠けますし、用意された曲目の限界や、選曲者のセンスの幅なんかで相手の手の内が結構簡単に見えちゃう部分もあって、どうにも盛り上がりきらない。

 本日はSilent Ozuの日です。演目は『非常線の女』で、音楽はArwulf-Arwulf.氏。
 Arwulf-Arwulf.はDJなんですね。つまり作業としてはライブなんだけど、演奏はしていない。

 この日はね、最高でしたよ。
 音楽は生演奏であるべきと思っていたこちらの認識をあっさり打ち壊してくれました。実に、実に楽しい。

 僕が生演奏の必要性を強く言っているのは、僕自身が選曲上映に飽きてしまったからでもあります。でも今日は違った。
 良い予感はあったんです。Arwulf-Arwulf.とは先日の『淑女と髭』でもご一緒していますが、彼の選曲は作品のコメディパートよりも近代都市の空気感を優先して表現していました。となれば『非常線の女』はうってつけの映画です。上映中も「音楽がこう来るなら、こちらはこうしよう」なんて考えながら、まさにライブとして音楽と戯れさせて頂きました。九十分が瞬く間。終演後に聞いたら「僕は日本語は分からないけれど、弁士の声を音楽として聞いたから全く問題なかった」と、そして「今日は人生が変わるほど感動した」と言ってくれました。僕が彼の音楽によって語りを変えた様に、彼も僕の声やお客さんの反応によって音を変えたのでしょう。

 つまり問題は既成曲を使う事ではなかったのです。選曲上映でも十分にライブ感は得られます。ただしその為には膨大な音楽が頭の中に入っていて、上映中に駆使できるセンスと反射神経が必要なのです。結局は生演奏をしているのと同じだけの労力が必要なんですね。そこまで出来るなら選曲上映にも大いに可能性があります。
 選曲上映が予算削減のための方法である時代は終わったのです。
 もっと研究されて良い上映方法ですよ、これは。
 
 殆どの弁士も楽士も、映画が主で演者は従、という美意識を持っています。けれどそれは演者が消えてしまえばいいというのではないのです。ある時は映画よりも引き、ある時は映画よりも前に出て、さらにある時は映画と並ぶ。映画との押し引きが上手く絡み合うからこそライブとして楽しめるのです。そうでなけりゃ無音が一番優れているって事になっちまいますから。
 Arwulf-Arwulf.は押し引きのさじ加減が理想的でした。
 楽しい夜はビールが美味いね。

 この項を書くために当日録音した物を聞きましたが、もっと上手くならなきゃいけないね、俺。

 写真はハロウィンが終わって余力50%のミッキー
50パーセントミッキー
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|11/02| 活弁コメント(0)TB(0)












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