アンノウンチャップリン

 吾輩は活動写真弁士であるからして、適度に無声映画について記す必要があろうかと思う。何を取り上げようかとしばし懊悩したが、やはりここはチャプリン氏に御登場願うことにした。チャプリン氏は無声映画中最大の名士であるからして、皆もいつもの片岡の文章と侮って読むのではなく、意義を正して読まれたい。

 起ィ立っ。気ヲつけ。礼!

 ふむ、座ってよろしい。

 さて、諸君もかの偉大なる俳優、チャプリン氏は知っていると思う。世界一有名な氏であるから、手紙に住所を書かず、ちょび髭と帽子、ステッキを書いたらその手紙が届いたというエピソードもあるくらいである。本当かどうかは知らんが、こんな話に幾らかの信憑性が生じるほど氏は著名であり、イメェジが浸透していたと言う事である。では、誰もが知っているチャプリン氏を我々は本当に知っていると言えるのか。さあ、諸君、考えてみてくれたまえ。

 ここに3本のビデヲテェプがある。タイトルは『Unknown Chaplin』。現在ではでーぶいでーでも出ているそうだから未見の者は早急に確認するように。この作品は氏の膨大なNGテイクとジャッキー・クーガン氏、ジョージア・ヘイル婦人、ヴァージニア・チェリル婦人等のコメント、あるいはホォム・ムービィで知られざるチャプリン氏に迫ろうという代労作なのである。この作品が取り上げられる時、必ず言われるのが氏の狂人的なまでのこだわりである。非常に良くできた滑稽なる場面も、作品にとって不要と判断すれば容赦なく不採用としてしまう姿勢に多くの観客は畏敬の念すら覚えるものだ。

 しかしながら、活動写真弁士たる吾輩、そしてそれを目指す諸君は違った目で、この作品を捉える必要性がある。それは何かわかるかね?

 S君、答えてみたまえ。なに?解りません。イカンね。不勉強で。では仕方がない。我々弁士が見なければならない点、それは…。

 ん?休憩時間の鐘が鳴っているな。では続きは後ほど。  えぇ、オォホッン。諸君、休憩時間の間に『Unknown Chaplin』に我々が何を見るべきか考えたで、あろうな?では答えてみたまえS君。

 何?解りません。困るではないか。君は真面目そうな顔をしておいて、どうして学ぼうとしないのかね。吾輩はしっているのだぞ。君は弁士の勉強もせずに不順異性交遊にふけっているそうではないか。

 まったく羨ま…、いや、怪しからん。

 では、教えてしんぜよう。我々が見なければならない点。それは氏の作品性に非ず。現存せるNGテイクの映像の美麗さである。弁士は映像ありきの芸能者であることは、もはや申すまでも無い事であるが、それが為に、観客の感動も大きく映像の質に左右される。これはいかんともし難い事である故に、弁士はいかにして高水準の映像を得るかで頭を悩ませるのだ。

 そして本作で観ることの出来るチャプリン氏のNGフィルムであるが、これが驚いた事にスコブル非常に美麗なのである。肌のキメ、布のしわ、明から暗、暗から明にかけての諧調の見事さを見たまえ!35㎜オリジナルフィルムであり、映写機には数えるほどしか掛けられていないが為にこれ程の鮮明な画像が得られるのだ。この映像を見れば今日我々が語る氏の初期作品がいかに劣化したものであるかは一目瞭然である。我々がチャプリンだと思っていたものは、実はチャプリンでは無かったとさえ言えようかと感ずる次第だ。

 諸君にこういう経験はないだろうか。興行主催者が無声映画の事を知らず、演目決定の段階で、とりえずチャプリンになってしまった事が。興行主の気持ちも解らぬではない。失敗は出来ない催しでチャプリンであればウケるであろうと思うのだ。そして実際はウケるにはウケるが馬鹿ウケとはいかないのが実情だ。これは氏の映画が必ずしも解り易い笑いではない事に起因している部分もあるが、もしも『Unknown Chaplin』に見られるNGテイクのような極美麗なる映像であったらどうであろうか。おそらく反応は我々が常日頃知っているチャプリン映画とは異なったものになるであろう。

 もっとも、主催者諸氏にもせっかく無声映画の会をやるのなら、もう少し勉強して頂きたいものではある。イメェジだけで判断するのはよろしくない。甲は乙のようなものだろう、であるとか、丙は丁だと皆が言っているからそうなのだろう、といった安易な判断は実態を大きく歪める危険性がある。

 例えば、いや、止そう。今はなるべく同業者の事は話題にしない方針なのだ。何?よく言ってる?失敬な、これでも随分控えているのだ。

 んまぁ、それはさておき、吾輩もいつか、あのような最高の映像で氏の作品を語ってみたいと念じておるのだ。

 うむ、終業の鐘であるな。では本日はこれまで。

 起ィ立っ。気ヲつけ。礼!
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|05/21| 活弁コメント(0)TB(0)












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